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「相続財産に無道路地がある場合の土地評価と注意点【不動産鑑定士が解説】」

相続財産に「無道路地」が含まれる場合、土地評価に悩む方が多く見られます。このような土地について、相場がなく、妥当な価格の把握が著しく困難であることが、その要因の一つだと思われます。特に都市部では接道義務を満たさないことで評価が難しく、相続税申告にも注意が必要です。本記事では、無道路地とは何か、不動産鑑定士による評価方法、相続税評価時の落とし穴について、実務経験に基づきわかりやすく解説します。

1.無道路地とは?その定義と誤解されやすい点

無道路地というと、まったく道路に接していない土地と思われている人が多いと思いますが、その理解だけだと、満点の回答とは言えません。無道路地を正しく言い表すとすれば、「宅地」(=建物の敷地)として利用できない土地です。さらに、言い換えると、一定規模があるのに「建物が建築できない土地」や「建物が再建築できない土地」となります。 土地上に建物が建築できるか否かで、その価値がまったく異なるものになることから、無道路地に該当するかどうかの判別は、重要度が非常に高いものと言えます。

2.建築基準法等における接道義務の基本と注意点

土地の上に建物を建築するためには、大きく分けて2つの条件を備える必要があります。

まず、一つ目は「建築基準法上の道路」に接している必要があります。「建築基準法上の道路」は例外を除き、原則4m以上の幅員があります。但し、外見上、道路の形態をしている通路や路線価が付設してある道路であっても、建築基準法上の道路として取り扱われていなかったり、建築基準法上の道路がどうか市町村等が判定していないこともありますので、注意が必要です。 二つ目がその建築基準法上の道路に原則2m以上接している必要があります。

ただし、これらは一般的な条件であり、都道府県や市町村の条例によって、接道義務が異なる場合があります。

例えば、東京都建築安全条例、横浜市建築基準条例では、路地状部分のみによって道路に接道する土地についての接道義務は以下のようになります。

その他、都道府県、市町村によって、様々な規定(特に強化規定)が存在することがあるので、役所等でのヒヤリングが必要になります。これらをクリアできない土地は無道路地として評価することになります。

3.財産評価基本通達における無道路地の評価方法

無道路地の評価については財産評価基本通達20-3に、以下のように記載されています。

この内容をかなり簡単に要約すると、無道路地について、接道を満たすように近隣の土地を買収する場合、その費用は上限40%までしか控除できないと言うことです。

無道路地と言っても、様々なパターンがありますが、上限40%の買収費用で接道義務を満たす買収が成功するような無道路地ばかりではありません。

例えば、首都圏の密集市街地であれば、買収したいところに建物などがあれば、その取り壊し費用、補償料等も実際の市場では勘案しなくてはいけません。 したがって、他に減価要因がなければ、無道路地を財産評価通達に沿って評価した場合、時価よりも高くなる可能性も多々あるということになります。

4.鑑定評価による時価申告のメリットとリスク

まず、最初に申し上げたいのは、不動産鑑定評価に基づき時価申告するよりも財産評価基本通達に沿った評価額に基づき申告するほうが、対税務署への通りは良いと言われています。これは、不動産鑑定評価は、財産評価基本通達1章6項の「財産評価基本通達の定めにより難い場合」該当する時に利用することとなるのですが、「財産評価基本通達の定めにより難い場合」該当するか否かの基準が曖昧であることに起因しているものと思われます。

したがって、時価申告を検討される場合には費用対効果、税務署に否認された際に予想されるリスク等とのバランスを考える必要があります。 一般に地価が高い首都圏内の土地については、鑑定評価を活用するメリットが大きいことが多いと思われます。

5.税理士が見落としがちな落とし穴とは?

不動産鑑定士が、通常の業務において、対象地の接面道路が建築基準法上の道路か否かを調査するのは基本中の基本なのですが、相続人の方や税理士事務所の職員の方からするとやり慣れない作業かと思います。

当事務所は、税理士事務所からの相続の土地評価の相談や相続の土地評価のお手伝いをさせていただくことが多いのですが、個人的によく見かけるのは、「路線価が付設してある道路であっても、建築基準法上の道路でない」ケースです。私の肌感覚では数年に1回は見かけるのではないかと思います。

そこを見落としてしまうと、本来であれば、無道路地として評価すべきところ、通常の宅地として評価してしまい、本来の価値よりもかなり高い価額で評価してしまうことになります。特に税理士事務所の方などは、クライアントからの信用を落とすことになりかねません。 このようなケースを簡単に図示すると以下の通りとなります。

下側の道路が建築基準法上の道路ではないことを見落とした場合、不整形補正もできず、高い評価額となります。一方、下側の道路が建築基準法上の道路でないことが分かれば、上側の道路の路線価に基づき無道路地として評価できます。この場合、不整形補正ほか、買収費用の控除ができます。

上のようなケースでこのような間違った評価をしてしまった場合、税務署から「高い評価をしてますよ」という連絡はほぼ無いと思ってください。 なお、この調査は現在、役所によっては、インターネットでも、可能な場合がありますので、年々、調査し易くなってきています。

6.無道路地が不整形な場合の評価テクニック

国税庁のホームページの質疑応答事例では、「不整形地」ではなく「整形地」の無道路地の評価方法についての例示ありますので、以下ご参照ください。

無道路地の評価は「差し引き計算」からスタートし、買収費用を控除するのが、オーソドックスな流れですが、設例は「整形地」ですから、対象地が「不整形地」の場合には、近似整形地に置き換えて、計算することになります。 なお、このパターンにもっていけるようであれば、不整形補正率も上限まで使えることも多々あるので、経験則上、評価額が大きく下がることが多いです。

まとめ

近似整形地の作成方法は、あまりオーストライズされていないため、個別で対応することになりますが、当事務所では多数の作成経験があります。もし、時価と財産評価基本通達と両側面から検討してみたいという方、相続財産が無道路地かどうか分からないという方、近似整形地の作り方が良く分からないという方は、是非、当事務所にご相談いただければと思います。