CONTENTS コンテンツ

相続の専門家選びで失敗しない|税理士・弁護士・不動産鑑定士の使い分け

相続の専門家選びで失敗しない|税理士・弁護士・不動産鑑定士の使い分け

相続の現場では、税理士・弁護士・不動産鑑定士が同時に関与することが珍しくありません。相続税申告、遺産分割、そして不動産評価は互いに影響し合うためです。ところが実務では「誰に何を頼むべきか」が曖昧になりやすく、窓口を誤ると手戻りや二度手間、期限徒過などのリスクが現実に起こります。

本記事では、税理士・弁護士・不動産鑑定士の役割と“境界線”を整理し、専門外に踏み込みすぎるリスクを回避しながら、円滑に協業するための判断基準を解説します。比較検討段階の方が「自分の案件に必要な専門家」を落ち着いて見極め、合理的に前へ進めることを目的とします。

第1章 相続に関わる主な専門家と役割整理

相続には複数の専門領域が同時に絡みます。各士業には得意分野があり、対応できる業務範囲も制度上の線引きがあります。ここでは、交錯が起きやすい「税理士・弁護士・不動産鑑定士」の3者に絞って整理します。

1-1 税理士:相続税申告と税務判断の中核

税理士は相続税の試算、財産評価、申告書作成、税務署対応など、相続税申告の中核を担います。相続税の申告は期限(原則10か月)があり、控除・特例の適用判断や、申告後の税務調査対応も含め、税務の視点で全体を設計できる点が強みです。生前対策(贈与や資産組換え等)の提案も税務の枠内で行います。

1-2 弁護士:紛争・交渉・法的手続きの責任者

弁護士は、遺産分割の対立、調停・訴訟、遺留分侵害額請求、相続放棄の申立てなど、法的手続きや紛争対応を担います。重要なのは、税務申告そのものは税理士の領域であり、弁護士であっても相続税申告の代行はできない、という線引きです。相続人の利害が衝突する局面では、弁護士が代理人として交渉・法的整理を行い、税務や評価はその枠組みに沿って進める形が合理的です。

1-3 不動産鑑定士:不動産の「適正な価値」を立証する専門家

不動産鑑定士は、不動産の価値を個別事情まで踏まえて評価し、鑑定評価書として立証する専門家です。相続税評価は通常「財産評価基本通達」に基づく路線価等で算定されますが、土地の特殊性(接道条件、形状、利用制約、土壌汚染等)により、通達ベースの評価が実勢と乖離し、結果として過大評価につながる局面があります。そうした場面で鑑定評価書を付すことにより、「なぜこの不動産は通常の評価では整理しきれないのか」を客観的に説明しやすくなります。
ただし、鑑定評価には費用がかかり、鑑定結果が常に“低くなる”とは限らないため、必要性の見極めが重要です。

第2章 役割が交錯しやすいポイントと境界線

相続で交錯が起きやすいのは、(1) 税務と法律の境界、(2) 不動産評価と税務申告の境界です。ここを曖昧にすると、誤った窓口選択や、業務範囲を越えた対応によるリスクが生じます。

2-1 相続税申告と法律手続き:税理士と弁護士の境界

遺産分割の内容は相続税額に直結するため、税理士は税負担の観点から分割案の“税務上の影響”を示すことができます。たとえば特例適用の可否や税額差など、税務的な判断軸は税理士が持ちます。
一方で、相続人間の利害調整や合意形成、代理交渉は法律行為であり、揉める兆しがある場合は弁護士に委ねるのが適切です。

また相続には期限が連続します。相続放棄(原則3か月)、準確定申告(4か月)、相続税申告(10か月)など、法務・税務の締切が同時進行で迫ります。分割協議が長引いても申告期限は待ってくれません。税理士と弁護士が連携し、期限管理と手続選択を両睨みで進める必要があります。

さらに、資格業務の線引きは厳格です。税理士資格のない者が具体的税務相談を行うこと、弁護士でない者が報酬目的で法律事務(交渉代理等)を行うことは、いずれも法的リスクを伴います。依頼者にとっては「誰が何を担当するか」を明確にし、越境を起こさない体制が安心につながります。

2-2 不動産評価と税務申告:税理士と不動産鑑定士の境界

土地評価は、相続税申告の中でも難所です。税理士は通達に基づく評価(路線価方式・倍率方式等)を行います。一般論として、通達評価は一定の標準化のもとで設計されますが、個別事情が強い土地では“画一的な計算”が実態とズレることがあります。
典型例は、接道条件が弱い、形状が悪い、利用制約がある、環境・土壌等の問題がある、といったケースです。このとき「通達評価の枠内の補正」だけで整理できるか、それとも「市場の適正価値を立証する必要があるか」が分岐点になります。

不動産鑑定士は、個別事情を織り込んだ鑑定評価額と、その根拠(調査内容・判断過程)を評価書として提示できます。申告に添付することで、税務当局に対して客観的説明がしやすくなります。
また、遺産分割で不動産の価値が争点になっている場合、第三者評価があることで合意形成が進みやすくなる側面もあります。弁護士が交渉の基礎資料として鑑定評価を参照する場面も想定できます。

第3章 専門外の領域に踏み込むリスクと留意点

相続では「ついでにやっておきます」が起点となり、専門外に踏み込んだ結果、かえってリスクが増えることがあります。依頼者側も「最初の相談窓口」を誤ると、時間とコストを失いがちです。

3-1 違法行為(業際)リスク

士業の業務範囲は法令で区切られています。税務相談や申告代理、法律事務(交渉代理等)は、それぞれ資格者の領域です。越境は当事者(専門家側)にリスクがあるだけでなく、依頼者側も「その助言は有効なのか」「後で否定されないか」という不安定さを抱えます。

3-2 誤判断が“後戻りできない”結果を生む

相続は期限が短く、やり直しにはコストがかかります。評価ミスがあれば申告の修正・更正、追徴課税や延滞税のリスクが現実になります。法律面でも、素人判断で交渉を進めて関係が悪化し、当初は避けられたはずの紛争に発展することがあります。曖昧な知識で判断すると、顧客や関係者に迷惑をかける可能性が高い点は、実務上の大きな注意点です。

3-3 コストと時間のロス(結局、二度手間)

本来、最初から適切な専門家に当たっていれば一本で進んだものが、窓口を誤ることで「相談→やり直し→資料の出し直し」となりがちです。相続では期限があるため、遅れはそのままリスクになります。費用を抑えたつもりが、最終的に高くつくケースは避けたいところです。

第4章 専門家同士の協業メリットとワンストップの実務的価値

相続の実務では「専門分業した方が合理的」という結論に落ち着きやすいのは、単に“分けた方が楽”という話ではありません。役割を分けて連携することで、結果の質とリスク管理が両立しやすくなるからです。

4-1 相乗効果:税務×法律、税務×不動産の掛け算が効く

遺産分割では、税理士が税務上の影響を示し、弁護士が法的に合意形成を進めることで、税務・法律の両面で合理的な分割案に近づきます。
不動産評価では、鑑定士が個別事情を整理して価値を立証し、税理士が税務上の要件や申告実務、当局対応の観点で“使いどころ”を設計することで、鑑定評価が活きます。単独では届かない最適解に近づきやすいのが協業の価値です。

4-2 ワンストップは「全部を一人でやる」ことではない

依頼者が求める“ワンストップ”は、本質的には窓口一本化とチーム運用です。依頼者が各専門家に同じ説明を繰り返さなくて済み、必要なタイミングで適切な専門家が入る。これが実務的な安心感になります。
逆に、ワンストップを「一人の専門家が全部引き受ける」と誤解すると、業際リスクや判断ミスの温床になり得ます。

4-3 クロスチェックで落とし穴を潰す

相続は「見落としが致命傷」になりやすい領域です。税理士・弁護士・鑑定士がそれぞれの観点で確認し合える体制は、ミスの確率を下げます。「専門家選びを誤ると後戻りできない」という言葉の実務的な意味は、まさにここにあります。

第5章 適切な専門家選択の判断基準と進め方

ここからは、比較検討段階で使える“判断の型”を提示します。案件の全体像が整理できていない段階でも、最低限の分岐ができるように構成します。

5-1 ケース別・相談先の判断フロー(文章ベース)

  1. まず、相続税申告が必要かを見立てる
     遺産総額が基礎控除(3,000万円+法定相続人×600万円)を超えそうなら、原則として税理士を起点に考えます。申告期限が10か月で、財産評価と特例判断が必要になるためです。
  2. 次に、紛争性(揉める兆し)があるかを確認する
     遺言の有効性に争いがある、遺留分の主張がありそう、相続人間で感情的対立がある、相続放棄を検討している等があれば、早期に弁護士の関与を検討します。法律の枠組みが固まらないまま税務や評価を進めると、後で前提が崩れる恐れがあります。
  3. 不動産評価に“特殊性”があるかを点検する
     土地の接道・形状・利用制約・環境要因などにより、通達評価が実態と乖離しそうなら、不動産鑑定士の相談対象になります。遺産分割で不動産価値が争点なら、第三者評価として鑑定評価を使う選択肢もあります。
  4. 結論:税理士を起点に、必要に応じて弁護士・鑑定士を組み込む
     ただし紛争性が強い場合は、弁護士が先に骨格を作り、その上で税務・評価を積み上げる方が合理的な局面もあります。重要なのは“順番”と“担当範囲”の設計です。

5-2 専門家選択のチェックリスト(比較表+箇条書き)

① まずは全体像:誰が何を担うか(比較表)

主な業務・場面税理士弁護士不動産鑑定士
相続税の試算・申告書作成◎(専門)×(不可)×(不可)
生前の相続税対策(税務判断)◎(専門)△(一般的法律助言)×
遺産分割協議の代理交渉△(税務助言の範囲)◎(専門)×
調停・訴訟・遺留分・相続放棄×◎(専門)×
不動産の評価額算定○(通達評価)×(不得意)◎(専門)
但し、通達評価は一般的に不得意な人が多い
鑑定評価書の発行××◎(専門)

※◎=主要業務、○=対応可能だが専門外領域を含む、△=補助的、×=対応不可。

② 依頼判断に直結するチェックリスト

  • 相続税が発生しそう/申告期限が気になる
     → 税理士に相談。試算・評価・特例判断・期限管理を起点に整理できます。
  • 相続人間で揉めそう/遺留分・遺言・放棄が絡む
     → 弁護士に相談。交渉や手続きの“法的な骨格”を固めるのが先決です。
  • 評価が難しい不動産がある(接道・形状・利用制約・汚染等)
     → 不動産鑑定士に相談。個別事情を踏まえた価値の立証が必要かを見極めます。
  • どこから手を付ければ良いか分からない/情報が散らばっている
     → まずは窓口を一本化(税理士を起点にしやすい)。必要な専門家へ繋げられる体制があるかが重要です。
  • 見落としが怖い(後から否定されないか不安)
     → 一部だけでも専門家チェックを入れる。全部を抱え込まず、“任せる合理性”を優先した方が安全です。

実務上の注意点整理(落とし穴を避けるために)

  • 期限管理は「揉めていても止まらない」:相続税申告(10か月)など、締切は待ってくれません。
  • 窓口ミスは二度手間を生む:説明のし直し、資料の出し直し、前提の作り直しが起きやすい。
  • 不動産評価は“通達で収まるか”が分岐点:通達の補正で整理できるのか、鑑定評価で立証すべきかを早めに判断する。
  • ワンストップ=越境ではない:窓口一本化とチーム連携が本質。全部を一人で抱えるほどリスクが増える局面がある。

まとめ 「任せる」判断は、分業設計ができる相手かどうかで決まる

相続では、税理士・弁護士・不動産鑑定士の役割が密接に絡み合います。相続税申告は税理士、紛争や法的手続きは弁護士、不動産の専門的評価は不動産鑑定士。それぞれに“代替できない領域”があります。
だからこそ大切なのは、「誰か一人に全部を任せる」ことではなく、案件の状況に応じて適切な専門家が連携できる体制を選ぶことです。専門家選びを誤ると、期限徒過や評価ミス、紛争化など、後戻りできない結果につながり得ます。

当事務所では、不動産鑑定士・税理士事務所での実務経験を背景に、相続における財産評価基本通達の実務も踏まえながら、不動産評価の局面を中心に、必要に応じて他士業と連携し、全体の整理を支援します。
「自分の案件は鑑定が必要なのか」「評価のどこがリスクなのか」「どの専門家をどの順番で入れるべきか」が曖昧な段階でも、判断軸の整理から対応可能です。比較検討の一環として、状況整理のご相談をご検討ください。

関連記事